湯けむりの中で 山川 純一 誰も先客はいないのか 残念! まあいいか 一人で湯につかるのも おつなもんだしな しかし間もなく 待ちに待った扉の開く音が― ガラッ さて どんな人が登場しますか 入ってきたのは 僕の上を通り過ぎていった少からぬ男など 足もとにも及ばぬような魅力的な男性だった ザ――ッ ヒャー いい体した僕好みのかっこいいオニイさん! ポーズも決まっちゃって… あれ? どきーん やあ 湯気で気がつかなかった 初めまして! うれしいなァ こんな温泉で若い人に会えるなんて バシャバシャ… これも何かの縁だ お近づきになりましょう! 早瀬謙介と言います …… 君は? あっ! 金沢正美と言います すみません… いつもは冷静な僕も男性的なしぐさの彼に はからずも舞いあがってしまっていたのだ そうか 君もひとり旅なの 俺は恋人なんていないからわかるけど 君なんてもてそうだし 連れてきたい女の子もいたんじゃないの? そ そんなもの いませんから… 本当かなァ ハハ… 笑顔もステキだ… 彼は僕より6つ年上の30歳―― 僕と同じ東京からのひとり旅―― 日々のわずらわしさからのがれるためにやって来たのだろう 明日いっしょに市内見物にでも行かないかい? ほっ 本当ですか!? 二人は長年来の恋人同士のように (もちろんこれは僕の一方的片思いだが) 親しく語りあった やがて話しもつきて お湯の熱さが気になりだしたころ 僕は一つの問題点と必死に闘っていた フーッ あついなァ 君はつよいね い いえ そうでもないんですけど… うだ〜〜〜っ このヤロ… チクショー! いくら好みの男性を前にしてるからって そんなにいきりたって 出るに出られないじゃないかよ 俺なんかうだっちゃって そこら中まっかなんだ ほら あっ… ピクッ ピクッ ザバ――ッ ガッ あっ!! 思ったとおりだな きれいなピンク色してうだってる うっ…! それはあまりに突然のでき事だった 彼が仲間だったという驚きと共に 下腹部をつき上げる彼のたくましいものの 快感とがあいまって 僕の心は乱れに乱れた うう… んぐぐ… 彼はテクニシャンだった…… 上と下からの彼の抜群の性技で 僕は快楽の波にほんろうされた ぐっ… ズリュッ ズリュッ ああ――っ!! やがて二人のペニスは絶頂をむかえ もつれあいながら同時に発射した ドピュッ ピチャッ ピチャッ はっ はっ 正美君 俺 もっと深く君のことを知りたいんだ 休む間もなく 彼はペニスを誇示しながら僕の前に立ちはだかった 一度出してもなお 堅さを失なわない彼のペニスは 愛液をしたたらせながら僕の肛門を求めて 力強く息づいていた 覚悟を決めて彼に肛門をさし出し 堅いものが触れた時 僕は愛する人にさし貫かれるという思いに 天にも昇る気持だった ズ… しかし 彼のペニスが肛門をつきやぶり 快感が背すじを走りぬけた時にそれは一変した ドンドン 兄キ! あいつ! 正美君 すまないがこのままうしろを向いていてくれないか? ニュプ… 何のつもりだ! こんな所まで追いかけてきて ガラッ す すみません だけど… 恋人がいたんだ…! 恋人もいないひとり旅だなんて言っておいて… あんまりじゃないか… うそついてまで抱かなくてもいいだろ…!? 正美君 すまなかった 変なところに邪魔がはいって チャッ ちょっと東京にヤボ用ができてね… すぐ帰ることになったんだ 君と知りあえてうれしかったよ 明日の約束はだめになったけど またいつか会おう! ぷいっ それじゃ… ふん! しおらしくあいさつなんかしやがって… なんだその態度は!ぐらい言って 僕をひきずり出してくれればいいじゃないか! ガラガラ… おい さっきのニュース見たか? ああ 関東の緋門組組長 射殺さる! いやだねえ やくざの抗争なんて いつとばっちりがくるかわかりゃしない しかし やくざって言えば 脱衣所にいたおにいさんのいれずみもすごかったなァ ああ 背中一面に般若のいれずみ 体もいいし 男の俺が見てもほれぼれしたね だけど俺 あの顔どっかで見た覚えがあるんだよな どこでだったかなあ そうだ! 早瀬謙介だよ テレビで見たから確かだ! さっきの緋門組組長のひとり息子だよ! へえ! それじゃあ次期組長ってわけかい? だからあんなにあわててたんだね あっ… それじゃあ… 早瀬さんは やくざの… 驚きと衝撃― 彼がそんな人物に見えないだけにショックは大きかった それが去ると彼に対する後悔の念が心を満たした 彼はうそなどついていなかったのだ 謙介さん… 全てを理解してしまうと 彼の優しさが胸をしめつけた… 彼は僕を気づかって一度も背中を見せなかったのだ…